本編中。ほんのり女性陣に厳しめ。
(偶然もこれだけ続けば不思議に思うのは当たり前なのに、どうして気付かないんだろうか)
そんな事を考えながらガイは宿の一室で繰り広げられる"兄弟喧嘩"をぼんやりと眺めていた。
そう、兄弟喧嘩である。
喧々囂々。わーわーぎゃーぎゃー。飛び交う罵声のち時々拳。しかし其処に憎悪だとか嫌悪だとかそういうものは一切無く。本当に他愛の無いこどもの喧嘩。
いつからだったか常に別行動を取るアッシュがルーク達一行に割りと頻繁に接触――数時間自分達が取っている宿の一室に居座る程度だが――してくるようになってから、この兄弟喧嘩は毎度の恒例行事だった。
ただ、ガイは最初それに気付いていなかった。何故ならルークとアッシュが二人揃っている状態はどうにもピリピリとした緊張感を覚えるのだから、必然的に用事を見つけては外出しているのが常だったのだから。
それは他の面子にとっても同じだったようで、何かしら理由を付けて外出、あるいは買出しに行ってしまうのだ。
つまり、宿の一室にルークとアッシュの二人だけという状態が形成されるわけで(危険とかそういうのは何気に最強を誇る強さな二人が揃ってる時点で大丈夫だろうという判断がなされたらしい)
そんな事が数回続いた頃、今更ながら心配になってきたガイはジェイドと共にこっそりと赤毛達が二人きりの宿に戻ってみたのだ。
そしてそこで繰り広げられていたのがこの兄弟喧嘩である。
思わず踏み込んでしまったガイと、その後ろに居るジェイドの姿に赤毛達はぴたりと動きを止めて、片方はばつが悪そうに、そして片方は恥ずかしそうに視線を逸らし――数秒後、アッシュが微妙に赤くなりながら怒鳴り、そしてルークが見事に墓穴をぼこぼこと掘っていったのであった。
まあ、ようするに。この"兄"は無理無茶無謀を地で行く"弟"が心配で心配で仕方が無かったのだ。
回線繋げば一発なのにルークが痛がるから無理強いもどうか、と悩んだ挙句の行動が偶然を装って接触して宿に居座る。というなんとも子供じみた方法だったわけだ。
ちなみに件のピリピリした緊張感はいつ言い出そうか、今言うと聞かれる、とかそんな悩みが表に出ていたかららしく。
なんだこのとてつもなく不器用にかわいいこどもは。
赤毛のこども達への復讐心がいまやほぼ皆無に近かったガイラルディア・ガラン・ガルディオスの心境はそんな感じだった。
ついでにジェイド・カーティス。旧姓バルフォアの心境も似たような感じだった。
感極まったガイが褒めて宥めて、面白がったジェイドがからかう。それにぎゃんぎゃんほえるこども二人。
そんな出来事があった後から、この兄弟喧嘩はガイとジェイドの目の前でも遠慮なく繰り広げられるようになったワケだ。
いつになったら彼女達は気付くのだろう。
彼らは嫌いあってるわけでなく、親愛あってこその言い合いをしているのだと。
確かに皆の目の前での彼らはどうにも険悪にしか見えない。互いが互いを嫌悪しているのだと、そうとしか見えない。
でも彼女らは知らない。彼らがこうしてこどもらしい喧嘩をしていることを。ひとしきり互いにいいたい事を吐き出すと、その後は穏やかな時間が流れている事を。
そこには確かに互いを大切に思う気持ちがあるのだと。
自分たちだって恐らくはあの気まぐれと偶然が無ければ気付けなかったのだろう。
気付けばいいのに。
そう思う反面気付かなければいいのに、と思う気持ちもある。
常から言い過ぎる感のある彼女らは余計な事を言ってしまって、この穏やかな雰囲気をなくしてしまうのだろう。そんな予感がするのだ。
それに兄弟喧嘩でないとルークは、アッシュは、本当の気持ちを吐き出せないのだ。
こうして自分とジェイドの目の前で喧嘩をするのは少し心を許してくれた証拠なのだろう。
だけど、そこまでなのだ。
その気持ちを、此方に吐き出そうとは決してしない。
それは明確な線引き。
一度見捨ててしまったから。ルークは無意識に頼る事を拒絶して、アッシュもそれに気付いて何も言わない。
幾ら悔いても、それは変えようが無い事実。
自分達の言葉は、あの子には届かずにすりぬけていってしまうばかり。
だからこそ、自分達は見守るだけなのだ。
ああ、いつまでもこの穏やかさが続けばいいのに。
それだけが願いだった。
(この頃からガイとジェイドの親心が芽生え始める。みたいな。
喧嘩は悪い事じゃない。意思疎通には必要なことなんだよ。
でもきっと女性陣(特にナタリア)はわかってくれないとおも(略) )
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