いい加減マルクトだけの状態から離れましょう、って事で。
さいしょのでんごん。
さいしょのでんごん。
思い立ったが吉日。そんな言葉があるらしい。
「というわけでちょっとエンゲーブにいってきますっ」
「何が『というわけ』なのかさっぱりわかりませんよ、ルシ」
「まあ、いいじゃないか。日が暮れるまでに帰ってこいよ?」
「それ無理っ!?」
+++++
ご主人様。
ご主人様…ご主人様…!
ミュウはご主人様と一緒に駆け抜けたあの日々を、忘れたことはないですの。
ミュウの事を踏んづけたり、引っ張ったり、皆さんは乱暴だ、と怒ったりしていたけど。
ミュウは、それが嬉しかったんですの。
確かに、少しだけ酷いと思ったこともありました。でもでも、ご主人様が変わって…しまってからは、その扱いが段々となくなってしまって、それが逆に苦しかったんですの。
ご主人様の"気持ち"が、すっごく伝わってくる事だったのに、それがなくなってしまって。だんだんご主人様は何もしてこなく、話さなくなりましたの…。
ですから、ミュウは、ご主人様がアッシュさんと仲良しになったのが嬉しかったんですの!
ガイさんも、ジェイドさんも、ご主人様とアッシュさんが仲良くしているのを見守っていましたの。もちろんミュウもですの!
一生懸命にアッシュさんに向かっていくご主人様は、とても生き生きしていましたの!
それがとっても、とっても幸せだったんですの!
なのに、なのになのになのに…!!
どうしてお二人は、いなくなってしまったんですの…?
ミュウは、もう数え切れないくらいの日を、ずっと泣いてすごしましたの。
かなしくて、つらくて、さみしくて。
それでも、お二人がいなくなってしまってまで、守った世界で、ボクはがんばって生きていくんですの。
きっと、きっときっと、その方がご主人様も(きっとアッシュさんも)喜んでくれるはずですのっ!!
「みゅぅぅっ」
ふぁいと、おーっ、ですのっ!!
気合を入れていたら、ガサガサと茂みをかき分ける音と足音が聞こえましたの。
…珍しいですの、人間さんがこの森に来るなんて。
迷ってしまったんですの?だったらどうしようですの、今ミュウにはソーサラーリングがありませんの…っ!
「…チーグル?」
現れたのは茶色がかった金の髪のヒト。
でも、でもでも。どうして。どうしてどうして。
どうして、ご主人様そっくりな顔をしているんですの…?
「みゅ、みゅうみゅうみゅうみゅうっ!!」
誰、誰なんですの!ご主人様と同じ"あなた"は一体"誰"なんですの…っ!?
意味が通じたのかは、わからない。でも、その人はきょとん、と目を丸くして。
それから、微笑みましたの。…笑い方も違いますの。
「…こんにちは…"はじめまして"、ミュウ。おれは、おれの名前は…ルシエル、だよ」
ルシエル、さん…。
ああ、やっぱり、似ているけどご主人様じゃないですの。
じゃあ、じゃあやっぱり、ご主人様は…帰ってこない、ですの?
「ミュウ、きみに伝言だ」
「みゅ…?」
でんごん?ボクに?だれから?もしかして…!
「『ルーク』から、青い聖獣へ―――」
そう言って、ルシエルさんは目を閉じました。
そして開いた時―――そこに居たのはルシエルさんじゃありませんでしたの。
いいえ、ルシエルさんですけど、表情が、まるで…ご主人さ…ま…っ!
『色々酷いことしてごめんな。そんな俺なのにいつも一緒に居てくれて、すっげぇ嬉しかった。ミュウが居てくれたから助かった事なんて数え切れないくらいだ。本当に、本当にありがとう。そして―――さようなら。
俺は、幸せだよ』
…ひどいですの、ひどいですのご主人様ぁ…っ!
こんな伝言、嬉しくて飛び上がりたいくらいなのに、悲しすぎますの…っ!
俯くボクを、ルシエルさんは撫でてくれました。
顔を上げたときには、もうご主人様が重なる事がなくて、ルシエルさんでしたの。
それはとても、とてもとても、悲しい…でも、嬉しさのにじみ出た表情でしたの―――。
+++++
「たっだいまー」
「ですのーっ」
「おかえりルシ…ってミュウじゃないか、久しぶりだな!」
「はいですの、お久しぶりですのガイさん!」
「おや、賑やかですね…」
「ジェイドさんもお久しぶりですの、お元気そうで何よりですのー」
「其方も元気そうですね……で、エンゲーブ行きの目的はこれだったわけですか」
「あーうん、半分くらい。でも付いてくるのは予想外だった」
「ルシエルさん大好きですのーっ!!」
(懐かれました(笑) これ以降、流石に住み着きはしないけどちょくちょくグランコクマに通ってくるチーグルの姿が見られるようになったとかならないとか。
馬車にこっそり乗り込んだり魔物をふぁいあぁぁぁぁぁ!でこんがりにしたり、毎度大冒険しながら遊びにくるミュウはきっと男前。
親二人と陛下除いての最初の伝言相手は彼。ミュウなら絶対間違えない!
エンゲーブとかチーグルの森もマルクト国内だっていうツッコミは不可です(…) )
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