しかしルークが出ていない・・・!
シュザンヌ様微黒化。
髭不幸標準装備。
ティアに厳しいです。
「裏切り者ヴァンデスデルカ、覚悟っ!!」
朦朧とする意識の中、視界に映ったのは屋根から飛び降りてきた女に公爵家の人間として立ち向かおうとする朱色の髪の少年の姿。
そして、その姿は、光と共に消え去った。
「なんということだ…」
呟く消えてしまったた少年の師匠――と言い張る髭――の元へ、いまだにすっきりしない頭を軽く振りながら使用人の青年は歩み寄る。そして
「みすみす見逃しておいてその台詞は無いだろうがっ!!」
その背を力いっぱい、蹴り飛ばした。
ちょっ、痛っ、やめっ、ガイラうるさい黙れお前の所為でルークがっ、ルークがっ!ルークがぁぁっ!!
そんなやり取りが、侵入者が使った譜歌の影響から回復した白光騎士が中庭に踏み込んでくるまで――いや、踏み込んだ後も暫く続き(寧ろ経緯を知った白光騎士団も一緒になって袋叩きにしていた)騒ぎを聞きつけた公爵夫人の登場で漸く終わりを告げたのだった。
髭はボロボロになっていた。
「では襲撃犯は貴方の妹でしたのね、ヴァン揺将?」
にこり、と品の良い微笑を浮かべながらファブレ公爵夫人、シュザンヌは目の前で正座をさせられている人物に向かい言った。
微笑みは微笑みだ。しかしその背後には暗雲を思い起こさせるような気配が見え隠れしている。それに震え上がりつつヴァンは口を開いた。
「妹は誤解してい」
「言い訳は聞きたくありません」
どないせぇっちゅーねん。ヴァンは泣きたくなった。
藁をも縋る思いで己の主へと視線を送るも、その主はとてつもなくイイ笑顔でその背後には魔界を思い起こさせるような気配が隠しもせず放たれていた。
さらに泣きたくなった。あれ、ガイラルディア様こっち側じゃなかったですっけ?そんな感じだ。
そんなヴァンにシュザンヌは微笑みかける。
「少しでも責任を感じるのであれば、今から直ぐにルークを探しに行ってくださいね」
超震動の収束地点はマルクトだそうですよ、船の手配はさせてますから直ぐに向ってくださいな。そう今しがた超震動の収束先の報告に駆け込んできた白光騎士を労いながらシュザンヌは告げた。
助かった、そうヴァンは思ったのだが実際は泳がされてるだけだったりする。
哀れである。
先に港へ向ってくださいね、と笑顔でヴァンを追い出したシュザンヌはガイへと視線を移し、小さく首を傾げながらにこりと笑んだ。
「ガイ、わかっていますね」
「襲撃犯の事ですね」
今の光は何事ですの!という玄関方面からの声はスルーして二人は会話を続ける。
「あの愚か者の尻尾を掴むいいきっかけにはなりましたが…ルークを傷付けるようであれば、遠慮なくやってしまいなさいな」
「は、かしこまりました――ですが、ルーク様はお優しい方です」
慈愛すら滲ませるような微笑(ただし背後の気配は黒い)を浮かべながらすっぱりきっぱり言い放つシュザンヌに、ガイは少し困ったような笑み(ただし背後の以下略)で答える。きっと彼の事だ、いかに許されるべきではない犯罪者とはいえ目の前で殺される事にいい顔はしないだろう。彼は優しいのだ、本当に。
これはナタリアでんkげふぅっ!とかいう悲鳴が聞こえてきたがこれまたスルー。
「…そうですね……では、最低限このバチカルまで連行していらっしゃいな、セシル将軍にお願いして特別製の牢へ案内してもらいましょう」
「は」
イコール洗いざらい吐かせてぽい、である。しかも教団関係者が襲撃犯。これで大詠師モースが少しでも黙ればいい、という考えもある(少なくともこの時はそれくらいの役には立つだろうと思っていた)
ルーク!ルークは何処ですの!答えなさい!!という声と共になにやら破砕音が聞こえてきたがやっぱりスルー。
「あの子…いえ、あの子"達"をよろしくおねがいしますね、ガイ」
「承知しております」
そういって少し首を傾げる夫人の手首にはシンプルな作りのブレスレットがひとつ。
ルークと"彼"がガイを通しての手紙のやり取りで少しずつ相談し意見を交わして"彼"が購入してガイからルークへ手渡され。それはシュザンヌへとプレゼントされたのだ。
最近ではそんな事も少なくなったが、ともすれば臥せってしまう夫人を考慮してのシンプルなブレスレット。それは夫人を大いに喜ばせた(余談だが公爵には万年筆が送られており、公爵は涙ぐんだ)
ちょ、ナタリア殿下、やめてくだ、やめ――――と、そろそろ虫の息っぽい声が聞こえてくる。
「そろそろ止めないと出発に間に合いませんね」
「…そうですね」
二人は神妙に頷きあったのだった。
未だにボロボロなヴァン(服に所々穴が開いているのはナタリアの仕業だろう)と別れ、ガイはケセドニアから陸路でルークを探す事になった。
ローテルロー橋を渡って…まずはエンゲーブを目指すべきか。目撃情報が聞ければそれでよし。そうひとりごちて歩き出そうとしたところ、がしっと肩を掴まれた。
反射的に剣を抜きかけるが「俺だ」と一言告げられぴたりと止まる。"彼"は敵ではない。
「キムラスカ…バチカル方面から超震動らしき第七音素の集まりを感じた」
何があった。と普段より三割り増しの眉間の皺と鋭い目で見詰められ、ガイはほんのり遠い目になりながらも黒い笑みを返したのだった。
経緯を知った"彼"ことアッシュはそりゃもう荒れた。
あんっの髭ぇぇぇ!!計画云々より自分トコの妹躾けとけぇぇぇぇ!!!とキムラスカ側の宿の裏手(奇妙な穴が開いているが気にしない)でフードを下ろしたアッシュが、その紅い髪をごしゃごしゃとかき混ぜながらやや小声で叫んだ(器用だ)
そんな彼の肩をぽんぽんと軽く叩いて宥めるガイ。
「まぁ、そんなワケだからどっかでルーク見かけたら確保しといてくれ」
「それは不可能だ…俺は今任務中だ」
「ひょっとして、導師イオン捜索とか?」
「何故知っている!?」
「ヴァンがそれを理由にして予定に無い訪問をかましやがった」
「……あんの髭ぇぇぇ…」
わなわなと拳を振るわせるアッシュ。ちなみにもう片方の手は胃の上である。
元々真面目な気質だった彼はこの数年でさらに真面目になっていた。その性格で中間管理職は辛いぞアッシュ。
「…とにかく、確保は無理だが見つけ次第必ず知らせる」
「ああ、頼むよ」
「それから移動にこれを使うといい」
差し出されたのは細長い金属製の笛。
それに見覚えのあったガイはいいのか?と問い返した。
「俺の分はある。それはアリエッタがお前にと用意してたもんだ」
「あぁ…結構前にいいなぁとか言った記憶があるなぁ」
じゃ、ありがたく使わせてもらうよ。とうきうき笑顔でそれをしまい込んだガイに、アッシュは溜息を吐いた。
この男は何処まで手を伸ばしてるんだ。
少なくともアリエッタとシンクとディストはこちら側な気がする。
ラルゴも最近妙にそわそわしだしたが、こっちは多分ナタリアだろう。
大丈夫かダアト。
そんな切実な想いをアッシュが抱くのは仕方の無いことだったが、一番最初に引き込まれた手前なんとも言えないのだった。
(『ダアトが奴らに掌握される日も近いんじゃねぇか?』 と、神託の盾騎士団特務師団師団長六神将鮮血のアッシュさんは、後に特務師団員(全員味方)に遠い目で生温い笑みを浮かべつつ胃を押さえながら語ったそうです。
そんな感じで一を聞いて~の本編開始です。保護者側視点。
奴ら(幼馴染二人組み)は確実にダアト内に味方を増やしてます。
アリエッタはフェレス島出身だということを知ったガイが接触して仲良しになりました。
シンクはアリエッタと仲良くなったガイにつっかかってきたので逆に丸め込みました。
ディストはガイがルーク診察の為に拉致り、その後じわじわと味方に(ルークに絆された)
ラルゴはガイ経由でナタリアからお手紙もらってます。
ガイ暗躍しまくりなのに髭が気付いて無いという間抜けっぷり。一度懐に入れたら疑わないと思うんだ!
そんな髭が不幸なのは仕様。
この後ガイ様華麗にフレスベルグでルーク捜索。エンゲーブで情報ゲットして~って感じの足跡らしいです。)